平成19年9月25日発行 通巻106号
NPOリレーインタビュー
がんばれネットワーク
三重県NPO室が発行する市民活動・ボランティアニュース2007年10月号掲載の井上苑枝(いのうえ・そのえ)さんのインタビューです。
三重県内の市民活動団体の人をリレーで紹介していきます。但し、紹介するに当たってはルールがあります。1・同じ地域で無いこと。2・同じ活動分野で無いこと。さてどんな人がどんなふうに、つながっているのでしょう。視覚にハンディを持ちながらも、自ら盲導犬など補助犬の理解を広める活動を行っている多賀輝宏さんが紹介してくれたのは、鈴鹿市の井上苑枝さん。音訳ボランティアとして、約30年のキャリアの持ち主です。
仲間をたくさん作れば、
その活動量は10倍、20倍…に
なりますからね。
鈴の音
三重デイジーの会
井上苑枝さんに聞く
音訳ボランティア歴 約30年
……ボランティアを始められたのは?
音訳のボランティアを始めたのは娘が生まれてからですから、28、9年前でしょうか。その数年前から活動を開始していた音訳グループ「鈴の音(すずのね)」に参加しました。鈴鹿市社会福祉協議会もできたばかりの頃で、ボランティアグループも鈴の音を合わせて3団体ぐらいしかありませんでしたね。
……元々、朗読はお好きだったのですか?
小学6年生の時に、お話を暗記してみんなの前で話した記憶があります。私は元々、江戸っ子で、こちらに越して来たばかりで標準語をつかっていたから、担任の先生から指名されたのでしょうね。それに小学校に入った頃、毎日、父の前で国語の本を読まされました。合格点をもらえないと何度も読み直ししなくてはいけないので、一発合格できるように頑張りました。
……今まで音読したなかで、印象に残っている本はありますか?
梅原猛の「神々の流竄(るざん)」。依頼があって音訳したのですが、完成するまでにかなりかかりました。もちろん、依頼された方には「遅くなる」とお断りを入れました。古事記と日本書紀を比較した本でしたから、瓊々杵尊(ににぎのみこと) など、昔の神々や土地の名前などの読み方を調べるだけで数ヶ月もかかりました。神々の時代、日本語は音に文字をあてていましたから、瓊々杵尊にしても違う字があてられていたりしてね。インターネットもありませんでしたし、時には国会図書館に問いあわせたこともあります。完成後、同じ作者の「聖徳太子」全5巻を読んで欲しいという依頼がありましたが、取りかかれば10年はかかると思いましたので、いろいろ考えた末にお断りしました。聞きたいと思っているリスナーの方には気の毒だと思いましたが、こういった難しい本や官能小説などは、ニーズはありますけど音訳しにくいですね。
……鈴の音に入ってからの30年。変化はありましたか?
私が入った時は9人ほどで活動していましたが、今は30人ほどに増えました。
……メンバーが増えた理由は?
音訳ボランティア養成の基礎講座を始めたことでしょうか。私が入会してから数年、ゆるやかに活動していましたが、家庭の事情などでメンバーが減り、増員が必要になりました。そこで講座を開いて、勉強してもらった人たちにグループに入ってもらおうと考えました。
……音訳を指導する方法を教えてくれる講座があるのですか?
その当時はそのような研修は全くありませんでした。いろいろな朗読や音訳の講座を自分で受けて、その中で先生たちの指導法を覚えていきました。指導法の勉強に3年ぐらいかかったでしょうか。名古屋や大阪、東京まで講座を受けに行きました。時には初心者のフリをしたりね(笑)。少しでも進んだ方法を勉強している講座があると聞けば、どこへでも教えてもらいに行きました。とにかく知識や技術を吸収したいという一心でしたね。
……音訳講座を始めたのは?
20年前に鈴鹿で始めました。さらにこの活動を知った方から「指導して欲しい」という問い合わせが来て、今は菰野町や楠町、員弁や大安でも月1〜2回、講座を開いています。授業数は場所によって違いますが、1年間で10〜12回というコースです。発声、発音、腹式呼吸などを体験していただいた後、少しずつ文章を読んでいただきます。それも学校で習った読み方ではなく、耳で聞いて、文章の内容がわかる読み方です。各町の広報を読んでもらったりして、最終的にはちょっとした文章が読めるレベルにまで育てて行きます。鈴鹿の場合は授業数が少し多いので、実際に録音機器を操作してもらい、録音するところまで体験します。
……講座に取りかかる時、気をつけていることは?
受講生はもちろんですが、講座を主催する社会福祉協議会などの担当者にも最初にきちんと、私の目的はボランティアを増やすことだとお話します。講座を受けた方にはボランティアとして活動していただくつもりです。趣味や朗読にちょっと興味があるという程度の取り組みならお断りします。なかには思い違いをされて来る方もいますよ。音訳ではなく、朗読と言うと派手で華やかに見えるので、憧れる方もいるようです。普通の朗読は自分が楽しむものですが、音訳は視覚障害者を対象とした技術ボランティアですから、受講してもらえば、もう技術者の世界に足を入れかけているも同然です。
……何人ぐらい受講するのですか?
1クラス10〜20人ぐらいでしょうか。
……全員が音訳ボランティアになるのですか?
音訳の活動は地味なこつこつとした作業が多く、向いてないと思われる方や、活動時間が合わない方もいますから、受講生全員がボランティアになるということはありません。鈴鹿は毎年20〜25人が受講しますから、その人たちが全員入ってくれていたら今頃、何百人と会員がいますよ(笑)。それが30人前後でおさまっているのは、引っ越しや家庭の事情などで、ボランティアを続けられない方が出てくるからです。でも、せっかく声を発する技術を体験したのだから、音訳ボランティアはできなくても、学んだことを利用して、他に自分にできるボランティアをしてくださいとお話はしますね。
……音訳ボランティアのやりがいは?
テレビやラジオの情報は一般的な情報ですが、私たちが読む広報などはその地域に必要とされる生活情報。それを視覚障害者の方にお届けできること、自分の声がお役に立っているのだということに喜びを感じます。また、ボランティアのやりがいとは別に、音訳は自分のスキルアップというやりがいもありますね。漢字の読み方一つにしても、知ること覚えるべきことはたくさんあります。自分がそれを知って、理解できないことには言葉でもお伝えできません。音訳を始めてから国語的な力がついたと思います。
音訳はアナログからデジタルへ
……長く活動していると音訳の世界の変化も感じますか?
ボランティアの分野の中でも視覚障害者への情報提供は、戦後一番進んだ分野だそうです。一つはカセットテープが開発されて、安易に手に入るようになったことが大きいですね。私は活動当初からカセットデッキを使っていましたが、当時はまだオープンリールテープで録音している方もいました。今は行政なども視覚障害者への情報提供を福祉の仕事として認めてきて、委託事業や機材の貸与などをしてくれるようになったのは良かったですね。最初の頃は援助などありませんでしたから、録音機材なども自費で買いましたよ。私が最初に買ったカセットデッキは現在の物に比べて機能も劣っていましたが10数万円もしました。最近はカセットからCD、アナログからデジタルへの移行が進んでいます。実は私、デジタル図書を製作する三重デイジーの会の会長でもあります。
……デイジーとは?
視覚障害者のためのCD録音図書ソフトのことです。このソフトをパソコンに入れて音声を編集すると文章を各章ごとに分割したり、ページにチェックを入れたりすることができます。完成した音声はCDに焼き、プレクストークという専用の読みとり機で聞いてもらうと、章の検索や読みたいページの頭出しが簡単にできるのです。
……カセットテープの場合は、途中に聞きたい場所があると探すのが大変ですが、これだと拾い読みもできますね。
連続して聞く小説などはカセットテープでも不便はないと思いますが、調べ物をしたり、広報の中から自分に必要な情報だけを聞いたりする時には便利だと思います。プレクストークは定価ですと8万円くらいしますが、自立支援法が施行される前は割引などの制度があり、安価で購入できるということを説明して、鈴鹿の視覚障害者の方にはずいぶん買っていただきました。今でも収入が少ない方などはお安く手に入ります。
……移行は進んでいますか?
高齢の方は使い慣れたカセットテープがいいとおっしゃってますし、まだ数割といった程度です。でも、一年ごとに大幅に増えてきていますよ。使い方さえわかれば、こちらの方が便利ですし、パソコンで聞かれる方も増えましたから。若い方は、ipodなどのデジタルレコーダーでも聞いているようですよ。三重はデイジーに取り組むのが遅かったのですが、2010年には全国的にカセットテープから、デジタルデータに統一しようという動きがあり、三重県視覚障害者支援センターも力を入れてくれています。
……三重デイジーの会の役割はデジタル図書の普及ですか?
デジタル編集のできる音訳者育成も行っています。音訳者も使い慣れた機械の方がいいという方がいますが、近い将来カセットデッキが無くなる方向ですし、音訳者がデジタルに移行できないと、視覚障害の方たちへ提供できる物も遅れてしまいます。視覚障害の方に新しい方法をお伝えしていくことも、私たちの務めでしょう。
……井上さんがデジタル編集を指導するのですか?
音訳者でパソコンがさわれる人が他にいなかったの(笑)。1年ぐらいかけて編集ソフトの使い方を一生懸命覚えました。5年ほど前から編集基礎講習を行っていて、最初は名古屋から先生を招いていましたが、今は私や、編集を覚えた方が講師をしています。現在、パソコン編集に関わってくださる方は県内で40名ぐらいに増えました。毎年講習を行っていますから、少しずつ増やして、その方たちが地域の核となって音訳グループの中で広めていただきたいと思っています。
……音訳ボランティア自体にしても、デジタル編集者にしても“増やす”ということに意識的ですね。
自分が朗読をしたくて始めた活動ですけど、最近は指導することが忙しくて自分ではあまり読めなくなりましたね(笑)。でも、私一人ができる活動量は限られているでしょう。それが、仲間をたくさん作れば、その活動量は10倍、20倍…になりますからね。
自然に福祉や町づくりを考えるように…
……その他の活動は?
鈴鹿市ボランティア連絡協議会(以下、ボラ連と略)の副会長と、ユニバーサルデザインを進める「ハートフル・アクセス」の事務局、お話「えくぼ」という読み聞かせの会の代表もしています。長いことボラ連の会長を務めてきましたが、今は副会長です。現在、鈴鹿の会長は任期が2年。会長が代わると前後の事情がわからないことがあるので、その辺をフォローしています。
……なぜ会長を続けず、副会長に?
同じ人があまり前に出ていても仕方がないかなと。それに今はボランティアの事情もいろいろ変わってきていますから、新しい人に会長をしてもらった方がいいですね。
……ハートフル・アクセスに関わった理由は?
車椅子利用者だった森川さんが発起人で、協力して欲しいという依頼がありました。県のユニバーサルデザインアドバイザーという資格ができたばかりのことで、その資格を取って活動していこうと立ち上げた矢先に森川さんが亡くなられて。その遺志を繋げるという意味で事務局を担当しています。
……活動がどんどん広がっていきますね。
ボラ連の会長を長くしていると、どうしても福祉とかまちづくりを考えるようになります。そういえば、最初に聴覚障害の方にお会いした時は、戸惑いましたね。接し方が視覚障害の方とは正反対。でも、身振り手振りで応対しているうちに、コミュニケーションを取りたいという想いさえあれば、伝わっていくものだなと思いました。ユニバーサルデザインにしても、自分が住む町が障害者にも、子どもや高齢者にも住みやすい町になればいいなあと、ごく自然に思いましたね。
……活動が幅広くて大変では?
いろいろありますが、私の基本はやっぱり音訳。代表とか指導とかのお世話係りは他の方にお願いして、デイジー編集とパソコン録音でじっくり音訳をしていきたいと思います。
……約30年続けてきた原動力は?
やっぱり、声に出して読むのが好きなんですね。特にストーリーのあるものだと、自分の中でイメージして、理解して読まないといけませんから。一生懸命読んだものがデータとして残って、しかも誰かが聞いてくださるわけでしょう。とても嬉しいですね。
菰野町社会福祉協議会が主催している音訳講座で、講師を担当する井上さん。
井上苑枝さんはこの人を紹介します。
松野 博さん
四日市市三泗地区を中心に、『防災一座』として、市民に向けたユニークな防災活動をしている松野博さんをご紹介します。
おねがい
市民活動・ボランティアニュースに情報を提供される際、以下のことにご注意ください。
(1)原稿はニュースにそのまま掲載できる状態にして、
毎月10日
までにお送りください。
(2)送付はE-mailもしくはFaxで。その際、「市民活動・ボランティアニュースへの掲載のお願い」と件名を明記してください。
Fax.059-222-5971 E-mail seiknpo@pref.mie.jp
転載を希望される場合は必ずNPO室に連絡してください。
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