平成18年9月25日発行 通巻94号
NPOリレーインタビュー
がんばれネットワーク
三重県NPO室が発行する市民活動・ボランティアニュース2006年10月号掲載の林 沙苗(はやし・さなえ)さんのインタビューです。
三重県内の市民活動団体の人をリレーで紹介していきます。但し、紹介するに当たってはルールがあります。1・同じ地域で無いこと。2・同じ活動分野で無いこと。さてどんな人がどんなふうに、つながっているのでしょう。聖十字病院の緩和病棟でボランティアをしている四日市市の鈴木愛子さんが紹介してくれたのは、鈴鹿市の林 沙苗さん。趣味である絵手紙をボランティアに活かし、デイサービスやホスピスなどで指導しています。


ボランティアって、お互い様だと思います。

林 沙苗さんに聞く


趣味の絵手紙をボランティアに活かして…

……ボランティアを始めたのはいつ頃ですか?
今から16年ほど前、子どもが幼稚園に入った頃です。時間が少しできたので、前からテレビなどで見て興味を持っていた認知症の方とふれあえるボランティアを探しました。近所にある介護老人福祉施設で買い物の付き添いや行事のお手伝いなどをしていたのですが、子どものが小学校に入学したのを機にそこに勤め出しました。そのうちに介護の勉強がしたくなり、菰野にあった介護の専門学校に通いました。この学校は今はもう無いのですが、保育士の免許があれば1年で資格が取れるということでしたので「よし、1年なら通えるぞ!」と思って、資格を取らせていただきました。
……現在の活動内容を教えてください。
津市のNPO法人憩いの汀(みぎわ)さんのデイサービスと七栗サナトリウム、あと鈴鹿市の公民館で絵手紙の指導をさせてもらっています。
……月に何回くらい行っているのですか?
毎週火曜日はボランティアをする日と自分で決めて、第1週は七栗サナトリウム、残りは憩いの汀さんにお邪魔しています。公民館の講座は月2回ほど行っています。
……絵手紙の活動はいつ始めたのですか?
憩いの汀さんには5年ほど前から、七栗サナトリウムには2年ほど通っています。
……どちらもお住まいのある鈴鹿市の施設ではありませんが、どうやって知ったのですか?
新聞を見て「ここ!」と思った所に行っているだけです(笑)。病気をして、入院したのですが、憩いの汀さんの記事は手術する前に読み、「元気になったら行きたい」と思いました。ホスピスに興味を持ったのは私の病気もガンの一種だったからです。七栗サナトリウムの記事を見た時に「これは行かなくちゃ」と勝手に思いこんで出かけたのが始まりです。憩いの汀代表の西口さんも、七栗サナトリウムで一緒にボランティアさせていただいている上野さんも好きですし、どちらも居心地がいいので楽しく続いています。
……人との出会いも魅力のようですね。
ボランティアを始めてから、これから先もずっとつきあっていきたいなと思う人とたくさん出会えましたね。先方がどう思っているかは知りませんけど(笑)。今回、インタビューのバトンを回してくれた鈴木愛子さんも含め、私がそう感じた方たちは皆さん女性ですけど、信念を持ってひとつのことをやっているというか、活動にウソが無い。言動と行動が同じなのが魅力的ですね。
……絵手紙を始めたきっかけは?
介護の仕事をしていた時です。一人の利用者さんとの出会いがきっかけで、この方がもっと元気になり、目を輝かせることはないかと考えていた時、その方が以前、日本画をされていたことを知りました。それで、その方と一緒に本などを見ながら絵手紙を描き始めました。当時、絵手紙というものは知っていましたが、私自身は描いたこともありませんでした。
……指導の資格などはあるのですか?
日本絵手紙協会の講師資格を取りました。最近はひとくちに絵手紙といってもいろいろな物があって、中には塗り絵のような物など、絵手紙を始められた日本絵手紙協会会長の小池邦夫先生の考えからははずれた物もあります。講師資格は小池先生の「ヘタでいい、ヘタがいい」というモットーをきちんと伝える人材を養成するために作られたそうです。資格取得は単位制になっていて、私が取った時は60単位が必要でした。絵手紙や感想文などの提出物のほか、月に1回ほど、大阪までスクーリングに通いました。当時、家から一番近いのが大阪の教室でしたから。
……病院とデイサービス、公民館。それぞれ指導も変えているのですか?
デイサービスの場合、認知症の方も多いので、その方の生活歴なども知りながら、常に寄り添いながら接するようにしています。言葉かけもそれをきっかけに行ったりしています。それに年輩の方は絵は上手に描かなければいけないと思っていらっしゃるので、楽しく描けばいいということを伝える方法を考えています。学校では絵でも書道でも成績がつけられたでしょう?でも絵手紙はそうではなく、自分らしい手紙が描けたらいいのですから。今は昔のことを思い出してもらえるようなお話などをして、そこから絵を描きだすなどいろいろやっています。例えばカボチャを描いてもらう時にも「さあ、描きましょう」ではなく、実物を触ってもらったり、農業をしていた方なら「これはどうやって作るの?」というお話をしたりしています。
……単に絵を描くだけでなく、ふれあいがあるのですね。
特に認知症の方は、周囲との関わりと絵を描くことがセットになっていると思います。昔のことを思い出してもらう方法は回想法といいます。私は介護福祉士でしたから、認知症のことなどは少し専門的な勉強もしていますので、それを活かすようにしています。なかなか難しいところもありますけどね。
……仕事で得た知識が活かされているのですね。
認知症の方は一般の方とちょっと導き方が違いますね。症状がある程度進んでみえる方でもいい味の絵を描かれたり、絵に添える言葉にしても、凄くいい言葉を書かれる方がみえますよ。
……絵手紙の場合、評価することが難しいのでは?
いいところを見つけて差し上げるという感じかな。もちろん順番をつけたりはしませんし、その辺りも私が絵手紙を好きな理由です。自分らしい、自分にしか描けない絵手紙ができればいいですね。
……七栗サナトリウムでの活動は?
体力的にも絵を描くことが無理な方もいますが、ここで最後の手紙を書いてもらえるのではないかと、私は思っています。手紙は後に残りますしね。ある方は「もうすぐ妻の誕生日だから」とおっしゃられて、病室で一緒に描かせてもらいました。今までプレゼントをしたことがないとおっしゃってましたから、多分それが一番最後のプレゼントになったと思います。別の方は病室に絵手紙が飾ってあったので「描かれるのですか?」と尋ねたら、お姉様が描かれているとのことでした。私が七栗サナトリウムを訪れる日にお姉さんも参加して、一緒に描こうと約束していたのですが、突然具合が悪くなられて実現することはできませんでした。でもその後、お姉様から「絵手紙、楽しくやっていたみたい」と教えてもらいました。その他にもお孫さんに送りたいと言う方もいました。多分、身体は辛かったと思うのですが、一緒に筆を持って、お魚の絵を3枚ほど描きました。
……最後の手紙と考えると、一緒に描く林さんにもプレッシャーのようなものがあるのでは?
始めた頃は病室に入るのも平気だったのですが、途中から自分はこの病室に入る資格がある人間であるのかと思うようになってきました。今は看護師さんたちが好意的に皆が集まる部屋に連れてきてくださいますし、お部屋で描きたいという方は私が訪れるようにしています。
……こちらでもコミュニケーションを取りながら?
人が集まってくれば自然にお話もしますし、家族の方にも来ていただいています。看病されているうちに煮詰まってしまう方もいます。そういう方が少しの時間でも病気のことを忘れるというか、休める、痛みが和らぐものがあればいいと思います。私は絵手紙をやっていますが、絵手紙じゃなくても何かあればね。私がもし入院している立場だったら、最後にいろいろな物に挑戦する機会があればいいなと思います。体力的には無理かもしれませんけど、いろいろなことに接することだけでもできればね。
……公民館の講師は市の方から声がかかったのですか?
いえいえ、自ら行ってしまいました(笑)。絵手紙の関係でも荒木万里さんという魅力的な人に出会いまして、その方が「ダメよ沙苗ちゃん。資格を取ったら、動かなきゃ」って背中を押してくれて、そのまま公民館へ行っちゃいました(笑)。私、自分からはなかなか行動できないのですが、いつも人が背中を押してくれるのです。本当にいろいろな方との出会いがあって、今があると思います。でも何よりまずは家族でしょう。専門学校やスクーリングにも通わせてもらいましたし、本当に家族、特に夫には感謝しています。
……指導するのも大変でしょう?
絵手紙を指導する方は、ほとんどが自分より年上の先輩ばかりですから、私ももっと勉強しないといけないって思います。そしていつも皆さんからいろんな事を教えていただいています。ありがたいことです。ボランティアでも、公民館でも行くと自分も楽しいし、エネルギーになりますね。私、ボランティアってお互い様だと思います。人間、誰でもいつか年をとっていきます。だから、できないことは少し手助けをする、自分もできなところは手伝ってもらう。そういうお互い様ができていけば、世の中もっと変わるのにって思います。
林さんが描かれた絵手紙。

この世にたった1枚の絵手紙

……画材は何を使うのですか?
色は顔彩という日本画の絵の具を使います。墨は青墨というちょっと青みがかった墨と顔彩が相性がいいので、それを使っています。不思議なことに心穏やかにして擦ると墨の色も違ってくるのです。でも別にペンや鉛筆で書いてもいいのですよ。
……絵手紙を始めて変わったことはありますか?
小池先生は「常にアンテナを張っておきなさい」っておっしゃってます。絵手紙って見た物を正確に描くのではなく、自分が感動した部分を大きく描くなど、心を動かされたところから描いていくものでしょう。だから、絵手紙を始めると物の見方が変わってきますね。一つの花でも上から見たり、横から見たり。いろんな角度から見るように、いろいろな物をいろいろな角度から一生懸命見てしまいます。その辺が以前と比べて変わったかな。
……絵手紙の上達の秘訣は?
数多く描くことでしょう。線に集中して、何枚も描く内に自分らしい絵手紙が描けるようになります。小池先生は「自分らしい絵を描きなさい。自分の心を伝えてください」って言いますね。後は人に送ること。絵手紙は絵のついた手紙ですから、ポストインしないと意味がありませんから。だから、自分が描いた絵手紙って手元に無いの。みんな人の所に行っているから。自分の絵手紙展を開く時には一時、返してもらいます(笑)。
……絵手紙を送るのはお友だちとか?
お友だちもありますし、会ったことも無い全国各地の方とも交流しています。日本絵手紙協会の友の会に入会すると交流希望のメンバーの名簿が見られるので、そこから選んで絵手紙を送っています。メンバーは全国に3000人ぐらい。年1回、全国大会があるので、そこで会うこともあります。皆さん、交流は楽しみだと思うし、刺激ももらえます。凄い絵手紙をもらうとすぐに出さなきゃって気になりますよ(笑)。会ったことも無い人に、そうやってエネルギーをもらえる。なんだか不思議ですね。それに絵手紙を見ていると会ったことの無い人でも、だいたいどんな方なのかわかってきますよ。
……どのくらいの頻度でやりとりしているのですか?
一日おきぐらいに届くかな。ポストの音が鳴ると「来たかな」って(笑)。十数人の方と交流していますから重なってくることもありますし。逆にいえばそれぐらいのペースで出しているということですね(笑)。絵手紙を描いていると時間もあっという間に過ぎます。私は夕方、台所で描くことが多いのですが、常に近くに道具を置いておくことも長続きさせるコツでしょうね。
……手描きですから1枚限りですよね。
それがいい。この世にたった1枚で、手描きというのがやっぱりいいなと思います。E-mailなど、世の中の流れとは逆ですけど、そこがまたいいかな。これから年賀状の時期になるので、絵手紙仲間は大変で、一時、絵手紙が来なくなるの(笑)。

林さんに送られた交流仲間からの絵手紙。


【林 沙苗さんはこの人を紹介します。】
野殿照子さん

自殺防止の相談電話、三重いのちの電話協会でボランティアをされています。

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